副業と年金
保険料をたくさん支払っているのに、もらえる年金は少ない。
こんな話をよく聞きます。
確かに社会保険料は毎月の収入からとても大きな割合で引かれており、負担感を強く感じます。
この中から年金保険として老齢年金や遺族年金などの年金に使われるのですが、では将来もらえる年金額は本当にそんなに少ないのでしょうか。
これを考える上で、まずは日本の社会が置かれている状況から簡単に見ていきましょう。
日本は今、世界でも類を見ない程の少子高齢化社会を迎えています。少子化で働く現役世代は減る一方である反面、高齢化で年金をもらう側の高齢者はどんどん増えていっています。
現在の年金制度では「マクロ経済スライド」を導入しています。
これは平均余命や現役人口の減少などの社会情勢に併せて、年金の給付水準を調整するというものです。
このため、将来の年金額は残念ながら今の水準よりも下がる可能性が非常に高い状況です。
内閣府2018年度版「高齢社会白書」「現役の働き手が何人で一人の高齢者を支えているか」(※「現役」=生産年齢を15~64歳とし、「高齢者」を年金受給者の65歳以上とする。)によると、高度経済成長期の1960年では、11.2人の現役の生産人口で1人の高齢者を支えていました。
ところが2017年では2.2人の現役で1人の高齢者を支えている状況にまで激減しています。さらに今後は支える側の現役世代はどんどん減少します。2035年では1.7人、2055年には1.4人と推計されています。
厚生労働省のホームページでは、現在の公的年金制度いついて、「現役世代が支払った保険料を仕送りのように高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方」だと説明しています。
賦課方式と呼ばれるこの「支え合い」方式では、年金受給額は自分が収めた保険料に伴って決まるものの、将来の自分の為の積立をしているわけではなく、現在の高齢者の年金を直接「仕送りのように」支払っているのです。つまり、これからは高齢者の年金を「2人以下」で支払う状況なのです。
このような状態で日本の年金制度は大丈夫なのでしょうか。
これはニュースで取り上げられることの多い話題です。前述の数字の通り、現在の日本は、支える側と年金をもらう側のバランスが著しく悪い状態です。そのため、今後は年金支給額を減額するか、現役世代が収める保険料を増やさなければ維持が難しい状態にまでなっています。
年金制度を維持するためにこれまで様々な対策も実施されてきました。公務員の共済年金の改革や年金受給年齢の引き上げ、GPIFの運用比率の変更も実施されました。それでも根本的な解決には程遠い状況です。
実は我々の老後は、もう既に国にだけ任せておけない状況になっています。各自が自助努力で老後を乗り切る。こんな厳しい時代がもう始まっています。自助努力に対して税金を優遇するという「確定拠出年金」はまさに少しでも自助努力を薦めたい国からのメッセージです。
冒頭の質問の検証を具体的にしてみましょう。
老後を守る上で、具体的に年金はいくら貰え、老後には一体いくら必要なのでしょうか。
財団法人生命保険文化センターによると、「ゆとりある老後」を過ごすためには1ヶ月に約34.9万円が必要とのデータがあります。
その一方で年金は、国民年金(老齢基礎年金)の給付(平成29年度、40年加入)は、月額約6.5万円となっています。仮に夫婦で倍額の13万円を受給しても21.9万円も不足します。
また厚生年金(老齢厚生年金)では平均受給額は夫婦で22.1万円。この場合でも12.8万円が不足します。(総務省2016年度家計調査報告での試算)
いずれの場合でも、年金額は「ゆとりある老後」を支えるためには充分でありません。
更に現在の高齢者の生活実態を見てみましょう。
総務省の2017年度の家計調査報告によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の年金などの社会保障給付は191,880円でした。
一方で支出総額は263,717円です。その不足額は71,837円となります。
年金で家計を維持しようとした場合、老後の生活を25年と仮定すると
不足額71,837円 ×12か月 ×25年 =21,551,100円となり、
生活費だけで約2,100万円もの蓄えが年金とは別で必要だということが判ります。
これは、医療費や自動車購入やリフォームなどの費用は別の生活に必要な金額のみを抜き出した金額です。
老後に向けてこれだけの金額の貯蓄を作るのは並大抵ではありません。
30歳の方が65歳までの35年間で毎月5万円ずつ欠かさず貯蓄すると、2,100万円貯めることができる計算です。しかしこれは、かなりハードルの高い数字ではないでしょうか。
現在の家計収支から新たに貯蓄に回す資金を創出しようとした場合、最も効果的な手段は年収を増やし、かつ節約をして支出を抑えることです。
そしてさらには貯蓄を運用して効率的に増やすことも考えなければならないでしょう。
「収入増&節約→運用」
上手くこの仕組みを作ることで余剰資金を大きく育てていくことができます。
節約と運用を効率的に行うための対策もありますが、当記事ではまず収入増についてお話したいと思います。
収入を増やすことを考えた場合、就労していない配偶者の方がいればパートなどの選択肢もあります。いわゆる「扶養内」で働いた場合、仮に年収100万円としても21年働けば2100万円となります。やはり共働きは家計にとって大きなパワーです。
一方で自身の収入を考えた場合、今の仕事で収入が大きく増える予定の方は恐らくかなり限定的ではないでしょうか。とは言え、転職して収入アップを図るのもリスクを考えると誰もが出来るわけではありません。そこでリスクが少なく出来る対策としては副業が挙げられます。
「働き方改革」の旗の元、2018年1月に厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」をまとめ、「モデル就業規則」から副業禁止の規定を削除し「副業・兼業は原則自由」としました。
これにより兼業・副業を容認・解禁した企業は昨年の22.9%から一気に増加し36.9%にまで増加しています。(株式会社リクルートキャリア 兼業・副業に対する企業の意識調査)
副業を解禁する企業側の思惑としては、副産物としてのスキルアップと本業への還元を期待しています。逆に言えば副業によるスキルアップが本業での収入増を生むことも期待できるわけです。
豊かな老後を迎えるためには、まずは出来ることからでも始めてみることが大事です。